エピソード1 A





 この測定を始めてから約1ヶ月が経過した時、鈴木はリンの 
 濃度が高い結晶に、異常な現象が現れるのに気が付いたんだ。

 P−n接合というのは、順方向に電圧を加えると電流が流れ 
 やすく、逆方向ではほとんど電流を通さないという性質を持 
 っている。(もう、勉強したよね!) しかし、鈴木がこの 
 実験のデータをグラフに書いてみると、順方向より逆方向の 
 方が電流が大きく、しかも順方向電流の特性にコブのような 
 カーブが生じる。
 「こんなことがあり得るはずがない」と、鈴木も初めは半信 
 半疑だったけれど、何度やっても結果は同じだったんだ。

 この事を、すぐに江崎に報告した。江崎もやはり当初は「何 
 かの間違いじゃないか?」と思った。しかし、鈴木は「これ 
 は、現象として出すことができます。」と言ったんだ。
 「それじゃあ、ブラウン管に出してみよう」という江崎の指 
 示で、鈴木がブラウン管に波形を出した。2、3回テストを 
 繰り返し、測定回路を確かめたが間違いはない。江崎も、以 
 上を認めた。

 この異常を認めた時、江崎は後の「エサキダイオード」発見 
 の入り口に立っていたんだよ。
 続く  



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