エピソード1 @





 ソニーでは、江崎(敬略)が、開発グループに加わる前、ラジ 
 オの生産に力を入れていたんだ。ところが、トランジスタの組 
 み立ての際に、ベースにリード線を付けるボンディング作業の 
 段階で大問題が持ち上がったんだ。
 多量にリンを混ぜて作った型は、結晶を引き上げて切り出した 
 ままで測定すると良い特性を示す。が、これにリード線をボン 
 ディングした途端、不良品になってしまう事がわかったんだ。 
 良品は10%にも満たない。これでは、ラジオの生産が間に合 
 わない、と工場は大騒ぎしていたんだ。 

 すぐにエンジニアが総動員され、連日対策会議が開かれたんだ 
 けれど、良い解決策はなかなか見つからなかったんだ。
 エンジニア達は、不良となったエミッタ接合の特性を、調べ始 
 めた。その結果、リンを入れすぎたため、ボンディングすると 
 半導体のP−n接合部が破壊されてしまうらしい、という事が 
 分かってきた。そこで、どこまでが限界かを調べるため、リン 
 の濃度をいろいろ変えて特性の測定を行なう事にしたんだ。 

 この測定に研究課の江崎がかりだされ、測定助手として東京理 
 科大学の学生でソニーに実習に来ていた鈴木隆(敬略)らが手 
 伝う事になった。
 続く  



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