ソニーでは、江崎(敬略)が、開発グループに加わる前、ラジ
オの生産に力を入れていたんだ。ところが、トランジスタの組
み立ての際に、ベースにリード線を付けるボンディング作業の
段階で大問題が持ち上がったんだ。
多量にリンを混ぜて作った型は、結晶を引き上げて切り出した
ままで測定すると良い特性を示す。が、これにリード線をボン
ディングした途端、不良品になってしまう事がわかったんだ。
良品は10%にも満たない。これでは、ラジオの生産が間に合
わない、と工場は大騒ぎしていたんだ。
すぐにエンジニアが総動員され、連日対策会議が開かれたんだ
けれど、良い解決策はなかなか見つからなかったんだ。
エンジニア達は、不良となったエミッタ接合の特性を、調べ始
めた。その結果、リンを入れすぎたため、ボンディングすると
半導体のP−n接合部が破壊されてしまうらしい、という事が
分かってきた。そこで、どこまでが限界かを調べるため、リン
の濃度をいろいろ変えて特性の測定を行なう事にしたんだ。
この測定に研究課の江崎がかりだされ、測定助手として東京理
科大学の学生でソニーに実習に来ていた鈴木隆(敬略)らが手
伝う事になった。
続く
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